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2016/3/25

手のふるえが止まる「パームサポーター」って何?

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Interview



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「本態性振戦」って言葉はご存知ですか?日常でもよく見かける「ふるえ」のことです。 日常生活に問題がなければ、放っておいても大丈夫ですが、字を書くときやコップで水を飲むときなどは不便を感じます。ちなみに「本態性」とは、医学用語で原因不明という意味です。

この「ふるえ」を抑えることができるのが「パームサポーター」です。今回、この「パームサポーター」について、工業デザイナーでもある株式会社菊池製作所顧問の井口さんに、お話をお聞きしました。

開発の経緯



【深澤】まず株式会社菊池製作所さんってどんな会社ですか?

【井口】菊池製作所は、1970年の創業から三十数年、開発・設計から金型製作、試作、評価、量産に至るまでの「一括・一貫体制」を確立し、時計、カメラの量産前の小量産試作を中心に「総合ものづくり支援企業」としてありとあらゆる分野の新製品開発をサポートしてきました。

長年培ってきた知識とノウハウの中に金属とデーターで曲げる技術があり、「この個々の手の形に合わせた装具でふるえが止まるのでは」と思ったところから始まりました。そして、始めに肘に装着するタイプの保持具が開発されました。



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保持具を装着

写真A
写真A



【深澤】それが、こちらなんですね。

【井口】はい。4年くらい前に、ある方の腕のふるえを止めるために、(写真Aで)テストを行っていました。そのときに、「腕のふるえが止まるから、そのまま手まで巻いてみてくれますか」とその方に言われました。「なぜですか?」と聞くと、「文字を書きたい」と。その方は、文章を書くことが好きだったので、腕のふるえが止まったように、手にも巻きつければ手のふるえも止まるのではないかと考えたようです。

【深澤】なるほど。

【井口】そこで、くるくるとアルミ素材を手に巻きつけてみると、手のふるえをなんとか抑えることができそうでした。そのときは、商品がピッタリと手に付いていなかったので、素材のアルミを手の形に合わせ機械で曲げる必要がありました。

【深澤】そこから「パームサポーター」の開発が始まったのですね。

【井口】はい。その方の一言がきっかけで、「いいかもしれない、いけるかもしれない」という雰囲気になり、「パームサポーター」の開発が新しいテーマとなりました。後に、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の公募にも申請し採択されました。



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初期モデルのパームサポーター



【深澤】それからは?

【井口】その後、開発途中ではありましたが、色んな人に商品を試してほしいと思い、展示会に出展してみることにしました。しかし、多くの人が来場し、大きさも形も異なるそれぞれの手に、ピッタリと素材の形を合わせるためには、会場に曲げるための機械の搬入が必要でした。

【深澤】機械の搬入はしなかったのですか?

【井口】機械を持っていくことまで考えていませんでしたね。とても大きい機械で搬入するのも大変ですし危険性もありますので。でも、なんとかして来場している方たちに、どう書けるか味わってもらいたかった。そこで、誰の手にもその場で調整できるように、中の素材をアルミから銅線に変えたんです。「これで大丈夫かな?」とも思いましたが、実際にふるえが抑制されました。

【深澤】びっくりですね。

【井口】驚きました、盲点でしたね。ここからさらに、振戦の患者さんや色んな方たちとの研究が始まりました。開発が進むにつれて、毎回お手伝いしてくれた方も非利き手で字が書けるようになってきました。そこでアマゾンでも試行販売し、どれくらいの人がほしいのか実態を調査しました。その後、大手の筆記用具メーカーさんから声がかかり、今では共同開発を進めています。



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フィット感がアップ!



【深澤】これがそうですね。ケースのおかげでとても装着感がいいですね。もっと楽に書け腱鞘炎にも良さそうです。

新しい「ものづくり」



【井口】私は脳について研究していた時期がありました。ちょっと難しい話になってしまいますが、脳の体性感覚野には体の地図があるんです。簡単に言いますと、脳にもっとも刺激する部位が手なんですね。だから、手を動かさなくなると脳に血液が流れない。これが認知症につながる。普段から手を使っている職人さんはみんな元気です。手を使わなくなることは、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)が落ちることなんです。

【深澤】手を使うことがとても大事なんですね。これがあれば、書くことを諦めなくてもいいですね。

【井口】私は「ものづくり」に40年間たずさわってきましたが、この商品がとても大事なことを教えてくれました。それは、「現場から体験できる『始作』を作らないといけない。思い込みだけで作ってはいけない。思い付きだけで作るものではない」ということです。そういう意味では、私にとって何と展示会場が実験の場だったんです。

過去の時代は、発想だけの「ものづくり」でも良かった。なぜならマーケットがあったから。しかし、ケアは違います。その人がしてほしいものを作る。本人の希望を聞きながら一緒に作ることがとても重要なんです。

人は心も体も一律ではなく、それぞれに異なります。だから、その人が本当に望むものもそれぞれに異なります。ですから売った後も大事で、よりお客さんとのコミュニケーションが必要になります。私は、「これが本来の仕事ではないか」と今ではそう思います。

【深澤】なるほど。今後ますます高齢化は進み、そのニーズは多様化します。個々に合わせた商品のニーズは高まりそうですね。



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まったく新しい発想から生まれた開発中の車椅子



【井口】今の日本経済は、高齢化に伴い増え続ける社会保障費や少子化による労働力の減少などで行き詰っていますよね。そのような中で、今後ケアの分野の需要が増えるのは間違いありません。今はまだ、現実に病気や怪我をされた方を対象とした商品ですが、今後は、団塊の世代を含む高齢化に向けて、これから悪くなるだろうと思われる人たちを対象とした商品開発まで手掛けたいと思っています。

【深澤】「未病」ですね。病気に向かいつつある状態の。

【井口】そうですね。たとえば、歩くことが難しくなってきた人が、一つの商品によって歩けるようになったら、医療費が削減できます。健康寿命が延び家に閉じこもることがなくなれば、地域社会への参加も進みます。それだけではなく、仕事をするようになれば日本の労働力増加も期待できます。使うお金が減り生産力が上がれば、この不況を救う、いわば、ケアディールですね。

【深澤】なんだか未来が明るく感じますね。

【井口】消費者も開発者も、みんながハッピーになれる商品を生み出したいですね。ケアの商品は、それができます。そして、2020年に東京オリンピックがやってきます。そのときに、多くの発明した商品を世界に知らしめたいですね。

【深澤】これから楽しみですね!





You Tube パームサポーター動画
https://www.youtube.com/watch?v=ME0pa907_RY



株式会社菊池製作所
http://www.kikuchiseisakusho.co.jp/



作成者:深澤 裕之